渡辺りえ院長による、ワンちゃん・ネコちゃんの飼い主さん向けのコラムです。

 

このコラムを通じて時々質問を頂くようになりました。私も飼い主さんに的確な説明ができているか反省の日々ですが、質問の多くに感じるのが“獣医師とのコミュニケーション不足”。例えば「●医院で血液検査を受け、その後白い薬をもらっても良くなりませんがこのまま様子を見ても?」などの質問が。診断には『見る・触る・飼い主さんから状態を聞く』が絶対必要なので、残念ながらこれらには「かかりつけの先生にもう一度今後についてお聞きください」とお答えすることがほとんどです。

 

人間だと検査センターなどで全て検査し診断するのも可能ですが、動物の場合はほとんどの検査を私達がかかりきりで行う上、麻酔が必要なケースもあり、体の負担や費用なども考えると、必要最低限の検査で最善の治療を行うのが大切だと思っています。ですから飼い主さんのお話を元に診察のポイントを絞り、視診、触診を行います。経過報告も今後の治療や検査を考える上で欠かせない要素です。どんな良薬や治療も個々に合うかは経過や反応を見ないと分かりません。「よく効くのは薬が強いからと思い量を半分に」や「吐くので薬を止める」などの自己判断は絶対に止めてください。私もつい「変わったことがあればまた診せてください」と言ってしまうこともありますがそれよりも「■日後・▲ヵ月後もう一度診せてくださいね」など飼い主さんと共に変わったことがないかをチェックする大切さを感じています。

 

ペットは獣医師の力だけでなく飼い主さんとの良い連携プレーがないと絶対に治せません。治療には検査と同じ位人の目(飼い主さんと獣医師)が大切です。例えば歯の治療を繰り返すうちに、飼い主さんの観察力が増し、私たちもびっくりするほど早く変化を教えてくれた方もいるほどです。獣医師が飼い主さんの知識と観察力を増す力添えをさせて頂くこともペットの健康を守る連携プレーに欠かせないのではないかと考えています。

 

 

動物の先端医療と東洋医学

 

当院も開院15年近くなり(※2004年当時)、当初仔犬や子猫だった子たちも、今では白髪がちらほらする時期を迎えます。我が子同然のペットを、例え高齢の20歳で亡くしても、飼い主の私たちにとって、子供を亡くす気持ちとなんら変わり無く「食べられて、苦しまない間は出来るだけ長く側にいてほしい」と願う思いがあるでしょう。テレビや雑誌等で見るCTやMRI等の特殊な検査や、歯科治療、動物のアトピー検査、腎移植等、昔は興味本位で見聞された方もいるかもしれませんが、当院でも紹介制度によりCT等の検査や専門的な放射線、眼科、歯科等の治療を受けて来られる方も多くなりました。院内でも普段から血液・尿検査、X線検査はもとより、腫瘍の細胞検査、歯科検診、内視鏡や超音波検査も行っています。ただ無症状の子に、健康診断しましょうと申しましても、何かのついでに血液や尿検査だけというのが多いのも事実です。

 

しかし最近、もっと適確に健康診断を勧めるべきと悔やむ事がありました。1匹の中年のワンちゃんが、予防注射で来院の際に、以前と違う感じを受けた為X線検査を行った所、お腹に大きな塊が見えました。専門機関でCT検査等を受けると、抗がん剤も放射線治療もできない末期癌でした。飼い主さんが感じていた事は、最近長時間歩くのを嫌がるだけで、年齢のせいと思われていたそう。「先生、毎年血液検査していたのに癌が判らなかったの?」と聞かれた時は無理と判っていても、申し訳ない思いで一杯でした。

 

その後してあげられたのは、最近当院で取り入れている東洋医学の漢方や鍼灸でした。動物に施す東洋医学は、自覚症状を訴えられないからこそ正確な確定診断が必用。それを実施するにも、普段から体のどこでも喜んで触らせるようなしつけが大切です。それにより私達獣医師の診療の基本の触る・診るや必用な検査も行え、飼い主さんにもより良い治療にもっと参加頂けると考えています。

 

 

知識のワクチン!

 

皆さんは“人獣共通感染症”をご存じですか? 言葉の通り、人から動物、動物から人へ行く感染症で、身近な例は今予防シーズンの狂犬病。日本では1957年以降発生していませんが、隣国の中国や韓国では発見されているので気を抜けません。犬からだけでなくキツネ、アライグマ、猫、コウモリなど感染源は様々なので、特に海外に行く方などは注意が必要です。また、犬や猫のお腹の寄生虫の回虫なども同様で「砂場で遊んだ後は必ず手を洗うように」と聞いたこともあるのでは。ただ、公園の砂場で遊ぶ子どもとそうでない子で感染率にほとんど差が無かった最新のデータもあり、むしろ飼っているペットなどのお腹の寄生虫やノミ・ダニなどがいないかをチェックしたり、足や体を洗う事の方が重要。フィラリア予防薬を飲ませるだけで3種の腸内寄生虫の予防駆除ができるのもあります。ワクチンだけでなく年に1回は検便をしたり、散歩の後に足を洗うなどで衛生を保ちましょう。

 

私が子どもの頃飼っていた犬は「犬が子どもへ回虫症を…」などと新聞に出たことにより心配した両親が手放しました。もしその時、獣医師に相談して確実な情報を得ていたらそうならなかったでしょう。実際、犬や猫から感染する病気のほとんどは手洗いやうがいで予防できます。正しい情報を持つことで過剰に怖がったり、悲惨なケースなどは防げます。疑問や質問が出てきた場合はお電話ではなく、検便などを持って必ず診察を受けるようにしてください。また、検疫のないペットや野生動物、野鳥には気をつけたほうが良いでしょう。

ペットを飼うことにより家中の衛生観念が高まり、動物からだけでなく人同士の感染症も防ぐことにつながると良いなといつも思っています。1~2歳ぐらいまでに犬や猫を飼ったことがある幼児は将来アレルギー性疾患にかかりにくいといった嬉しい結果もでていますヨ。

 

 

どこでも触れるようにPART.2

 

前号でワンちゃんの抱っこの練習法を始め、体の触り方や病院への慣らせ方などもお話ししましたが、皆さん練習して頂けましたか? まだ1カ月なので、上手にできなくても諦めないでくださいネ。性格の違いや経験量の差で、慣れるまでは嫌がってからの期間位かかることもあるのであせらず頑張ってください。また、咬んで必要な処置ができない子は事前にバスケット型の口輪に慣らす方法もあります。最初はそれを見せることからスタートし、はめられている時は必ず楽しいこと(ご褒美や散歩など)があるという風に覚えさせてください。どこでも触れてこそできる様々な治療。うなったり、咬んで触られないで済むと学習する前に咬めない状態を作る必要がある場合もあります。

 

特に猫は移動用のネットかケージに慣らすのも大切です。また、絶対に怒らず、興奮させない気配りが必要。例えば、痛がらない程度で頭を突付いて気を散らすと猫をほとんど持たずに注射などができることも多いです。全てのペットに言えることですが、力で制そうとすると動物は倍以上の力で反発します。動物が人の意志をくんで、リラックスして従ってもらえるようにするのが目標ですよ。

昔、ある飼い主の方に言われたことがありました。「先生は痛い注射ばかりするから○○ちゃんも病院嫌いになるのヨネ」って。「恐い体験だけで終わらせない為には飼い主の方の協力もかかせない」 と考え、10年位前から動物行動学に基づいたしつけの情報を飼い主さんにお知らせするようにしてきました。今ではリラックスして通院してくれる子たちも増えました。少しでも多くの飼い主さんの“ホントかな? よし、やってみよう”と思う気持ちが動物たちを変えるチャンスです。

 

(このコラムは、2004年前後に朝日新聞系列「まちかど.コム」に掲載された一部を抜粋し、了承を得た上で転載しています)